第11章 揺れる
そして人のあたたかさに触れた時、それまでの俺には、待つ者がいないのではなく、いて欲しくなかったのだと気がついた。
待つ者がいれば、帰りたくなる。妙な期待を込め、期待通りでなければ落胆し、待つ方、待たせる方共に傷つけあう。まして帰れなければ、それ以上の悲しみや苦しみを相手に与えてしまう。それが嫌だったのだと。どうせ戻れぬならば、誰にも知られず、ただひっそりと闇に埋もれていけばいい。そう思っていた。
だが、ことね の存在が俺を変えた。待つ者の強さを、潔さを俺に教えてくれた。待つ者にも覚悟があると。ふにゃふにゃと微笑みながら、凛とした強さを持つ ことねの姿に、はじめて待っている者がいるという強さを知った。
それがどうだろう、今、わずかだがひいろを待つ身ととなり、心が揺れている。じれじれと、会えないというこの時間が、思いもよらぬほど胸を焦がす。待つというのは、予想以上に忍耐が必要らしい。改めて、ことねの強さを思い知る。
手の中の手拭いを握りしめ、ふと目線を上げると、こちらへ歩いてくる家康と目が合う。
「探しましたよ、光秀さん」
「ほう、なんの用だ」
「秀吉さんが探してましたよ。すぐに来いって」
「あぁ、そうだったな。呼ばれていた」
「分かってたのなら、早く行ってください。怒ってましたよ、秀吉さん」
「いつものことだ」
「まぁ、確かに」