第10章 【番外編】いろは屋~その二~
「風の殿様が!? ご子息も療養中なのに……まさか、奴等が」
一之助がわずかに顔を歪める。
「確かなことは、まだ何も。じぃ、その後の報告は?」
「はい、奴等に大きな動きはありませんが、何かが、動き出していることは間違いないようです」
「何かが?」
「何者かが、奴等に接触しようとしている節がございます。人をつけておりますが、なかなかに手強いようで、しっぽさえ掴めておりません」
「そうですか。厄介なことになりそうだが、頼みましたよ、じぃ。ただ、深追いはしないように、皆によく伝えておくれ」
「はい、心得ております」
「このこと、信長様には……」
一之助の問に、吉右衛門は難しい顔をする。
「もう少し確かな情報が無くては、お伝えする意味がない。それに、あちらの方が情報は早いかもしれない。光秀様が呼ばれたのだから」
「確かに。では、そちらの方からも探りをいれますか?」
「いや、そちらには手を出さないほうがいい。光秀様が動いていれば間違いはない。こちらは、もっと別の方向からいきましょう」
「はい」
「ただ……」
吉右衛門の目が、厳しく光る。