第9章 【番外編】触れる ~家康編~
「探しましたよ」
突然、男の声がした。
驚いて振り向くと、いろは屋の番頭が、傘を手に立っていた。
いつ来たのか気配も分からぬほど、俺はひいろとの時に、溺れていたのか?いつから、見られていたのか?
俺の顔を無表情のまま見つめ、番頭が続ける。
「光秀様から知らせが届き、お一人で帰られたとのことで、心配して探しておりました。しかし……」
一呼吸おき、眼鏡の位置を直すと、番頭は俺を見つめたまま続ける。
「家康様が、御一緒にいて下さっていたのなら、心配は入りませんでしたね」
その眼鏡の奥の瞳が、言葉とは異なることを伝えてくるようで、なんとなく視線を外す。
視線を外した先に、ひいろの手拭いが落ちているのに気がつき、拾い上げようと一歩前にでる。
「あっ……」
ひいろの体が、先程の俺からの行為のせいか、びくりと反応する。
「ひいろ?」
「ごっ、ごめんなさい。お邪魔でしたね」
誤魔化すように、ひいろが微笑もうとする。その顔が、先程のひいろの言葉を呼び起こす。
早く誤解を解かないと、今の俺の気持ちを伝えないと
「あの、ひいろ……」
今の、気持ち……
気持ちって、なんだ?
ただ、口づけをしたかっただけ……
俺の中には、ことねがいる
でも、今は……