第9章 【番外編】触れる ~家康編~
勘弁してよ………
ため息をつき、胸の中のひいろを見る。
「ひいろ、大丈夫?」
「………はい、大丈夫です」
俯いていた顔をあげ、頬を赤く染め、困ったようにうるんだ瞳で、ひいろが俺を見る。
その顔、ずるい………
胸の中のざわめきが大きくなり、ひいろとの距離を離す。
「大丈夫そうに、見えないけど」
「大丈夫です。わっ、私は、花街に出入りしてますから、こういうことは………慣れています。ただ………」
「なに?」
「家康様が、いるから………」
消え入りそうな声で、そこまで言うと、女の声が一段と大きくなる。俺と視線を合わせたあと、更に頬を染め、ひいろがまた下を向く。
俺がいるから、恥ずかしいわけ?
なんなのそれ………そんなの………
急に俺自身も恥ずかしくなり、頬が熱くなる。やましい思いなどなく、ひいろに寄せていた身体を更に離し、壁についていた手も下ろす。どうしようもない雰囲気のまま、二人とも黙り込み、時が立つのを待とうとするが、中の二人の行為は激しさをます。
土砂降りの雨のなか、ひいろを連れて走り出すわけにも行かず、規則的にあがる女の声に舌打ちをする。