第9章 【番外編】触れる ~家康編~
そんなこと俺が思っているなんて、気がつきもしないんだろうな
そう考えながらひいろを見ると、ひいろは、困った顔で言い分けをする。
「ごめんなさい。実は、先程も光秀様が急用で送れないからと、光秀様や家臣の方や女中さん達まで、みなさんに心配されて……。私は一人で帰れますと、出てきた所なので」
一生懸命に話すひいろが、なんだか好ましかった。
そんなひいろの姿に、ことねの顔がかぶる。ことねは、今のひいろ以上に笑ったり、怒ったり、困ったり、忙しく表情をかえる。そこが、また可愛かったりする。
女なんて、ただの弱くて面倒くさい存在だっと思っていた。
ことねに出会うまでは。
やわらかくて、ふにゃふにゃで、弱くて、でも強くて、あたたかく、誰も彼もに平等で、鈍感で、すぐ転んで、おっちょこちょいで、それでいて、優しさですべてを包んでしまう、ことね。
ただ、愛しくて、俺が触れたくなる唯一の存在。
の、はずだったのに、今はひいろのことを、もっと知りたいと思う、もう一人の自分がいる。