第9章 【番外編】触れる ~家康編~
「あっ、待って………」
離れて行くひいろの手を追うように、思わず声がでる。そんな俺を見て、ひいろが少し怒ったような顔をして見せる。
「大丈夫です。風邪などひきません。私は子供ではありません」
「ひいろ?」
「父も番頭さんも、光秀様も、私が一人で出歩くのを心配されます。私だって、もう大人です。一人で何処にだって行けますし、帰れます。なのに家康様まで、風邪や一人で出歩くことを心配なさるなんて………私は、もう子供じゃありません!」
「そう……なの」
何の加減なのか、俺に対して初めてひいろが感情をぶつけてくる。それがとても新鮮で、しかも内容が内容なだけに、何だか微笑ましかった。
「なぜ、笑うのです!家康様!?」
「あぁ、ごめん。あんたも、そんな風に怒るんだなって思って。そういう顔見るの、初めてだから」
俺の言葉に、ひいろは、はっとしたように目を見開き、俺を見る。
「……ごめんなさい。私、家康様に失礼なことを……」
「別にいいけど。ただ、珍しかっただけ」
申し訳なさそうに、ひいろが頭を下げる。髪に挿してある朝顔の花飾りが揺れるのを見て、光秀さんのことを思い出す。
光秀さんとも、こんな風に話してるのかな……
今まで、考えもしなかった思いが、浮かんでくる。