第9章 【番外編】触れる ~家康編~
ざわざわした思いが、胸の中に広がりそうなまま、ひいろを濡らす雫を払っていると、その頬にたどりつく。柔らかい感触が手拭い越しに伝わり、何となく真っすぐに、ひいろを見れなくて、視線をずらす。
ふと、ひいろの手拭いが目に留まる。薄水色だと認識していたそれが、半分から薄黄色だったことに気がつく。薄水色と薄黄色で染め分けられ、真ん中が二色が濁ったようくすんでいた。
薄水色が光秀さんなら、薄黄色は俺かな……。
勝手な想像が、俺の動きを止めた。
「…………」
「家康様?」
手拭いを見つめ、手を止めている俺にひいろが気がつく。慌てたように俺の手から手拭い奪い取ると、自分の背中の後へと隠す。
「なに?」
「見ないで下さい……」
「なんで?」
「あっあの……恥ずかしいので……」
「恥ずかしい?」
「……私が染めたんです。でも、失敗して、あの、あまりお見せできるものではないので……」
「色々できるんだね、ひいろは」
「いえ、初めて染めたものです……」
ふと、ほころんだ俺の口もとを見て安心したのか、包みを強く握っていたひいろの手から力が抜ける。