第8章 触れる
ひいろの指先が真っ直ぐに俺に伸び、胸に触れる。その指はゆっくりと上へとあがると、喉元で止まる。そこから両手となり鎖骨から肩へむけて、探るように、指が這っていく。
肩にたどり着くと、両の肩から指先まで一直線に、すっと指先を一度滑らせる。そしてまた肩に戻り、今度は手のひら全体で味わうかのように、筋肉やすじなどに添ってゆっくりと、握っては離すを繰り返し、指先へと降りていく。
ひいろが真剣に俺の身体を探ろうとすればするほど、二人の距離は縮まり、ひいろの香りが強くなる。
俺の指に絡みつくように触れるひいろの指先が、握っていた俺の拳を誘うように開いていく気がした。もちろん、ひいろにそんな気がないのは分かっている。ひいろは、ただ真剣に絵の為に、俺の身体を確かめているだけなのに………。
目隠しをされているひいろは、指先以外は、ひどく無防備に見えた。指先ですべてを読み取ろうとしているからなのか、他の部分は素のものなのか、何時もとは違うひいろの表情をゆっくりと堪能し、俺は密かに高揚した。
言葉は発していないが、紅をひいたその唇が睦言を囁くように蠢く。ひいろの指先の動きに合わせ、強く閉じられたかと思えば、軽く下唇を噛んでみたり、開いた唇の間から見える濡れた舌先が、やけに生々しく映る。ひいろのその唇に肌を貪られているような、妙な錯覚に襲われ、それが俺の願望なのかと、余計に眼が離せなくなっていた。