第8章 触れる
気がつくと、ひいろが目の前にいた。
「光秀…様?」
「あぁ、どうした?」
「大丈夫ですか?……触れるのは、もうやめましょうか?」
心配そうにひいろが、俺の顔をを覗き見る。
考えることで、身体の熱を逃がそうとしたが、それ以上に考え込んでいたらしい。
「大丈夫だ。少し呑みすぎたようだ」
そう言いながら、ひいろの頬を撫でてやる。
少しくすぐったそうに微笑み、安心したような顔になる。
「ふふふっ…ほどほどになさって下さい。では……今度は前を触れさせて頂きます」
「あぁ。いいだろう」
軽く返事をしたものの、ひいろの手が胸に触れた瞬間、鼓動が跳ねる。胸にある指先に視線を落とし、ゆっくりと指先からひいろのことを、撫でるように見つめてみる。
「みっ光秀様」
「なんだ」
俺の視線が、ひいろの眼にたどり着く。珍しく慌てたような瞳がそこにあった。
「あっあの……あまり見ないで下さい……」
消え入りそうな声で、恥ずかしそうにひいろが言う。
「なに?」
「あまり、触れている私を見ないで下さい」
「なぜだ?」
「わかりません。ただ、なぜか恥ずかしいのです」
「ほう、俺に見られると恥ずかしいのか」
「はい。光秀様の眼が美しいからでしょうか?」
本気でそう言っているであろうひいろの言葉に、俺は小さくため息をつく。
俺の眼が美しいからとはな。男として意識されたのではなく、美しいものとして捉えられているのか、俺は。男としての喜びは、喜びと感じる前に、はかなく消える。
ならば……