第8章 触れる
~~~~~~~~~~~~
部屋の中には、ひいろの走らせる筆の音と俺の呑む酒の音。
諸肌を脱ぎ、片膝を立てた姿で酒を呑む俺の姿を、舐め回すように色々な角度から見て、ひいろが絵に描いていく。時々視線が合う、ひいろの挑むような強い眼を肴に酒を呑む。
相変わらず、いい眼だ。
髪をあげ、浴衣姿で絵を描くひいろの姿は新鮮だった。いつもは、後ろで一つに結わえるだけの髪が、白いうなじが誘うように見える姿は、やはり艶やかだ。だが、絵師として真剣に絵に向き合っているひいろの姿は、女の色香がどうこう言うものではなく、ただ毅然として、美しかった。
ゆるゆると酒を呑み、そばにひいろがいる。
何時からか、時々訪れるこの時間が日常になっていた。まだ、こうして共に過ごすことなど、数えるほどしかないのに、ひいろとの時間は、俺の身体の一部になろうとしていた。
「光秀様」
背中の方からひいろの声がする。
「なんだ」
「あの、またひとつお願いしたいことができました」
「なんだ」
「光秀様の身体に、触れてもいいですか」
触れる?俺の身体に?