第8章 触れる
指先を更に下に進め、腰の辺りある浴衣にたどり着く。浴衣を手をに取り、一気に肩まで引き上げると、驚いた顔でひいろが振り返る。
「光秀様、何で……」
「戯れが過ぎると、吉右衛門に恨まれるからな。それとも浴衣を取り去り、全てを俺に堪能させるか?」
「対価として、光秀様が望まれるなら、いかようにも……」
「望めばか……。あまり煽るな、俺も男だ」
「ふふふっ…私の身体など、ご興味ないでしょ。それよりも……」
「案ずるな。俺の身体なら全部見せてやる。対価はもらったからな」
「……よかった」
俺の答えに安心したように微笑むひいろの頬を撫で、はだけたままの浴衣の前をあわせてやる。
自分の肌を晒すのは拒まず、俺の身体を見ることができるかどうかの心配か……ひいろらしいと言えばそれまでだが、絵の為とはいえ、簡単に男に肌を晒すひいろのことが心配になった。
「ひいろ、お前はもっと男というものを知った方がいい」
「光秀様が所望されたからですよ。誰にでもではありません」
俺の言いたいことは分かっているとでも言うように、ひいろはそう答え、俺に背を向け浴衣を着はじめる。
帯を締めるその後ろ姿を見ながら、俺はまた考える。
その肌をもっと堪能すべきだったか?
俺以外、家康に求められればどうするのか?
その先を望めば、ひいろはどうするのか………
いつものように、答えなど出ないままだった。