第8章 触れる
ひいろの後ろに立ち、すぐ側で背中を見る。
やはり刀傷はなく、痕も見えない。あの女の言っていたことはなんだったのか?ただの嘘だったとしたら、やけに手の込んだものだ。ひいろに悪い虫が付かないよう、吉右衛門が流した噂なのか?しかし、身体を重ねた男がいるのは、番頭も認めていたが……。
ひいろの背中を見れば、答えは簡単に出ると思っていたが、そうもいかないらしい。釈然としない気持ちのまま、気がつくと俺はひいろの背中に触れていた。
「あっ………」
油断していたのか、ひいろから吐息がもれる。それと同時に俺の鼓動が跳ねる。悟られないよう息を吐き、肌に触れた指をゆっくりと腰の辺りまで滑らす。
「……んっ……」
「小娘でも、そんな声がでるのだな」
自分の中の熱を誤魔化すように、そんな言葉を口にしてみる。
「…少し驚いただけです」
視線をずらすように、前を向きひいろが答える。少し頬を染めているように見えたのは、気のせいだろうか。