第8章 触れる
「まて」
俺の声にひいろの肩が揺れ、動きが止まり肩越しに振り向いて俺を見る。
「そのままでいろ」
ひいろの背中は白く、他の年頃の女たちのそれよりも引き締まって見えた。無駄な肉がなく、鍛え上げたような身体の線が見てとれる。護身術と小太刀を使うと番頭が言っていたが、俺が思っている以上の使い手かもしれない。この間の実践的な動きを見れば、俺の考えが正しいだろう。
だからと言って、ひいろの身体は男のようではなく、しなやかで女としての色香を含んでいた。ただ、その潔さが情緒的ではなく、自分の身体など色欲の対象にはならないと言っているようだった。
そのまましばらく、俺はひいろの後ろ姿を堪能した。思った通り、ひいろの背中に刀傷などなく、綺麗なものだった。祭りの夜に見たうなじと同じように、白く滑らかな肌が続いていた。肩越しに振り向いて見せるその姿が、あの日の熱を思い出させ、花飾りの水色の朝顔とひいろの唇の紅の色が、その肌を一層白く引き立てた。
「美しいな」
そう言って、俺は立ち上がる。