第8章 触れる
そんな迷いを顔には出さぬよう、俺は意地悪気に笑い、不機嫌な顔を装うひいろに問う。
「では、何故拗ねてみせる?何かあるのだろう?」
俺の問に小さく笑い、ひいろはため息をつく。
「やはり、光秀様にはかないません。」
「かなわぬか?」
「はい。実は……」
そう言うと、ひいろは居住まいを正し、真っ直ぐに俺を見る。先程の幼さも艶やかさも消え、強い眼で俺を射抜く。そして、畳に指先をつくと深く頭を下げた。
「光秀様にお願いがあります。光秀様のお身体を、私に見せて頂きたいのです」
「身体を、か………」
「はい。先日、着物の上から触れさせて頂き、どうしても、絵に描きたいという思いが強くなりました」
「それで拗ねたふりをして、俺と取り引きしようと思ったのか」
「はい。浅はかにございますね。やはり私は小娘です」
そう言うと、苦笑いを浮かべながらひいろは、顔を上げる。少し上目使いに顔を上げるその仕草が、また俺の心を撫でていく。
絵のためとはいえ、家康ではなく自分が求められているかと思うと、自然と口元がゆるむ。それを誤魔化すように、口を開く。