第8章 触れる
「どうかされました?」
「……いや、初めてにしては上手いものだな」
誤魔化したように出た俺の言葉に、ひいろは素直に礼を述べる
「ありがとうございます。でも……」
そう言いながら、ひいろが懐から一枚の手拭いを出して見せる。
それは薄水色と薄黄色で真ん中から半分に染め分けられていた。左右の色はそれぞれに鮮やかに染まっているものの、色が混じりあう真ん中部分はくすんでおり、お世辞にも上手くできたとは言えないものだった。
「なかなか上手くいかなくて、何枚も染めました。一番上手くできたものが、光秀様のものです」
「そうか、色を変化させるのは難しいだろう。他のものはどうした?」
「家のものに……恥ずかしくて人様には渡せません」
そう言うとひいろは、手早く手拭いをたたみ懐へと戻し、少し拗ねたような顔をした。
薄黄色と薄水色を見た瞬間、俺の頭の中には家康の顔が浮かんでいた。
そのせいか、他の手拭いの行き先が気になって尋ねたのだか、何故だかひいろは気を悪くしたようだった。