第8章 触れる
「実は、私が染めたんです」
「これを、か?」
「驚きました?」
「あぁ、驚いた。染め物もできるのか?」
「初めてです。この花簪を買って頂いた時に、染め物のお話をお聞きして、とても興味深かったので教えて頂きました」
「あの店か。確かに熱心に聞いていたな」
「はい。作り手の方の技術も心意気も素晴らしかったので、次の日に伺いました」
「次の日に……それで家康に会えなかったのか」
「はい…お会いできなかったのは残念ですが、その代わり光秀様に喜んで頂けました。光秀様のことを考えて、一生懸命染めたので、褒めて頂けて本当に嬉しいです」
「俺のことを思って、染めあげたのか」
「はい、光秀様のことを思って、この色を選びました。あの日の浴衣の色がお似合いでしたので……」
俺の手に渡った手拭を、ひいろがそっと指先で撫でる。その仕草がやけに艶やかに見えて、自分の肌を撫でられたようで、一瞬動きが止まる。