第8章 触れる
不機嫌な……家康のことか。
俺とひいろが一緒にいるのを不機嫌そうに見ていた家康の眼。
家康は自分の想いにどこまで気がついているのか?分かりやすく見せることねへの想いと、無意識に見せるひいろへの感情。
俺と同じように、家康も揺れているのか?
気づいてないのか?
御舘様の一言で、急に思考が動き出す。
が、考えた所で答えがでるわけてもなく、ただただ、御舘様の言葉が頭の中に響いていた。
「………持っていかれますか」
「ふっ。まだ尻の青いところもあるが、あやつも男だ。まあ、お前が泣きをみる所を見るのも一興だがな」
杯を口元に運びなが、御舘様が面白そうな顔をし、そしてまた、月の方へ顔を向ける。
「今宵は十六夜の月に魅入らたか……」
「……はい」
「たまにはよかろう。お前とこんな話も」
「はい」
「月夜の戯れ言だ」
「戯れ言ですか」
二人、視線を合わせ、互いに口元だけの笑みを浮かべる。
そしてまた、ゆるゆると酒を呑むみはじめる。
十六夜の月だけが、静かに照らしていた。