第8章 触れる
その熱を確かめる間もなく、御舘様は月の方へ顔を向け、そしてまたゆるゆると酒を呑みはじめる。
月の光を受けたその横顔は、いつもの人を寄せ付けないような威圧感は鳴りを潜め、ひどく柔らかく晴れやかに見えた。
これが恋に狂わされた男の顔かと、しばらく見惚れてしまうほど、艶やかな顔だった。
「光秀」
「はい」
「お前も、人になってはどうだ?」
「………人に」
「案外、人というのも悪くない」
「…………………」
ふと、頭の中に祭の日に見たことねの顔とひいろの顔が浮かんでくる。
華のように笑うことねと、濡れた瞳で俺を見つめるひいろ。あの日見た蛍の光のように、淡い想いが俺の中で揺れていた。
「くくくっ……すでに人であったか」
御舘様の声に、我にかえる。
「お前のそのような顔が見れるとはな」
面白そうに口元をゆるめ、更に続ける。
「焦れていると、不機嫌なあやつに持っていかれるぞ」