第8章 触れる
ゆるゆると時は流れ、空いた徳利の数がふえていく。
「光秀」
「はい」
「人とは、愛やら恋だのいうものに狂わされるらしいな」
「……はぁ」
「光秀」
「はい」
月の方を向いたまま、御舘様の呟くような声が聞こえる。
「俺も、人であったようだ」
俺の耳に届いたその声は、ひどく優しいものだった。
「御舘様……」
「戯れ言だ、気にするな。だがな……」
振り向いた御舘様と眼が合う。
「あれは、俺のものだ。くれてやらんぞ」
「……はい」
一瞬ではあったが、いつになく御舘様の眼が熱く燃えているように見えた。