第8章 触れる
~安土城 天守閣~
「では、10日のちに」
「うむ。お前のことだ、ぬかりあるまい。せいぜい楽しんでまいれ」
「はっ」
夜の天守閣。
御舘様に報告し、次に出立する日を告げる。御舘様以外には知られぬよう、ぬらりと動く俺には夜がよい。
「今宵は十六夜(いざよい)か」
「はい」
開け放たれた障子の間から、十六夜の月が顔を見せる。
「光秀、付き合え」
「はっ」
用意されていた杯を御舘様に渡し、酒を注ぐ。一息に呑み終えるとその杯を俺に戻し、御舘様がその杯を酒で満たしてくださる。俺がそれを一息に呑むと、その後はいつものように互いに構わず、手酌でゆるりと酒を呑む。
十六夜の月を愛でながら、御舘様と二人、ただただ酒を呑む。それだけのことが、俺にはとても心地のよい。