第18章 Nobody(織田作之助)
思うに、織田作ほど私を甘やかしてくれる人はいないと思う。
そりゃ中也さんや姐さんも、私には砂糖かってくらい甘い。
ほかの構成員が不満を垂らしても、「深愛だからな」で済ましてしまう横暴さで私を甘やかす。
けれど、それはひとえに付き合いの長さと比例しているわけで。
それに、マフィアとしては他の誰よりも厳しい。
今ではそういうこともほとんどないが、作戦で失敗すれば、容赦なく折檻行きだ。
泣こうが喚こうが、気絶しようが許してもらえない。
けれど、織田作は本当に、心底私に甘い。
マフィアとして私を見る代わりに、女として私を見て、甘やかしてくれる。
シャンプーがお湯で流され、私が体を洗っている間に織田作が服を脱ぎ捨てる。
そして同時に身を沈めたバスタブの水は、ゆっくりと膨らんで表面張力の膜を弾けさせる。
後ろから私を抱きかかえた織田作が、心配そうに言う。
「お前少し痩せたんじゃないか?」
「目指せナイスバディ。」
「…言い方を変えるか。やつれたんじゃないか?」
「昨日お昼しか食べてない。」
中也さんにハンバーガー買ってきてもらいました、と言うと、ふつうお前が中原幹部に買ってくるのでないのか?と織田作が訝しむ。
「…いや、まて、俺が言いたいのはそう言うことではなくて…。お前、もう少し食べたらどうなんだ?睡眠も取れていないようだし…。」
「心配?」
「当たり前だ。」
きっぱりと言い切られ、私はんふふ、と笑う。
「笑うな、俺は真剣に心配しているんだぞ?」
「わかったわかった。明日からご飯は食べる。」
「睡眠もとれ。」
「そんな暇ないの…。ちょうど決済の時期だから、去年一年の活動費用の計算と確認を…。」