第18章 Nobody(織田作之助)
最下級構成員の織田作が、マフィア幹部右腕の私の部屋に来ることはない。
いくら私が権利を振りかざしたところで、強固なセキュリティーが織田作を幹部の部屋が連なる廊下には入れないからだ。
そうすると、私はどうやったって織田作の家で過ごして朝帰りになる。
自分は散々夜のお姉さま方と遊んでいるくせして、私の恋愛事にはうるさい中也さんと、少々過保護な姐さんに毎度いろいろ言われるわけだが、それを代償にしたって織田作との時間は貴重だ。
幹部ともなれば休日などない中也さんに、朝から晩まで馬車馬のように働かされ、たまに休日をぶんどっては織田作と過ごす。
もちろんそれも頻繁にはできないから、毎日その日の仕事をできるだけ早く終わらせて、織田作の家に直行するのだ。
珍しく今日のノルマがその日中に終わった私は、日付が変わるギリギリに織田作の家の扉を叩いたのだった。
「今日は来るような気がしてたんだ。」
そう言った織田作に、私は小さく笑いを漏らす。
「能力で見えたの?」
「いや、勘だ。」
ふふ、と笑い、私は倒れ込むように織田作に抱きつく。
それを受け止めると、織田作が私を抱き上げる。
お姫様のような横抱きではなく、子供を抱き上げるような抱っこなのが織田作らしい。
けれどこの抱き方は織田作の顔が正面から見えていい。
そしてそれは織田作にも言えることで。
「…疲れている顔をしているな。」
「昨日寝てないの。」
「前は肌が荒れるとか言っていなかったか?」
「織田作は肌が荒れた私は嫌いですか。」
「まさか。」
ならいいんです、と私は言う。
「織田作がいないのに綺麗な肌してても意味ないし…肌が荒れてても織田作に会える方がいい。」
「別に荒れてはいないがな。強いて言うなら隈ができているってくらいで。」
「え!化粧で隠せてない?」
隠しているつもりだったのか、と笑った織田作が、私をお風呂場に下ろす。
私はためらいなくすべてを脱ぎ捨てると、ぺたん、と風呂の椅子に座る。
ズボンの裾をめくり、織田作がゆるゆるとシャンプーをしてくれる。
「痛かったら言えよ。」
「むしろ痛くしてくれないと、気持ちよくて眠ってしまいそうです。」
「流石にシャンプーをしている間は困るな。」
笑いながら織田作がお湯で泡を流してくれる。