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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第17章 Cold water(福沢諭吉)


 豪勢な食事を食べると帰って行った真人を見送ると、深愛はやっと帰ったとばかりに私に寄りかかった。

「…本当に変なこと聞いてませんよね?社長。」

 少し酔っているのか熱い身体を抱きしめながら、私は笑う。

「安心しろ。お前が孤児院脱走の常習犯だったことも、トマトが食べられなかったことも、数学ができなかったことも聞いていない。」

「聞いてるじゃないですか!!」

 ポカスカと私を叩き、深愛がむくれる。

「…お前はあまり昔のことを話さないからな。私は楽しかったぞ。」

「はいはい、そうですか。」

 すっかり拗ねてしまった彼女の肩に頭を乗せると、今日は甘えたさんですか、と返ってくる。

「二人きりだからな。」

「…社長ほんとズルいです。」

 そう言うと、彼女は私の方を向き、私の頬を両手で挟むと、ちぅっと音を立てて唇に吸い付いた。

「…過去の話は嫌いなんです。真人とのことはともかく、あんまりいい記憶がないから。そもそも親にも捨てられた身ですし。」

 そう言って、彼女は私の胸に耳をつける。

「はっきり覚えてます。両親が私をスラムに置き去りにしたときのことも、孤児院で飢えていたことも、異能を悪用しようとした輩も。やりたくないことも、やっちゃいけないこともしました。そんな汚い部分、好きな人には知られたくないです。」

 暗くなる声と、時々震える呼吸。

 不安なのだと。

 言葉なしにも伝わってくる。

 酒が入っているからか、いつもより饒舌な彼女の背をなでると、私はあやすように語りかける。

「…私はお前の力を利用したりはしないし、苦しめたりもしない。ましてや捨てるなんてことは有り得ない。むしろ、お前を生かすためなら何でもしたいと思っている。」

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