第15章 【R18】Body moves(中島敦)
出勤時刻を30分過ぎても戻ってこない与謝野先生に、ついに腰を上げたときだった。
「おはよう、待たせたね。」
そう言って与謝野先生が入ってくる。
「あれ、深愛は…。」
てっきり一緒に来ると思っていた僕は首を傾げる。
「風邪だねー。季節の変わり目だし、体調崩したみたいだよ。妾は怪我は治せるけど、風邪には薬しか処方できないからねぇ。ま、寝るのが一番だって寝かせてきたよ。」
「深愛君が風邪…!これは明日嵐かな。」
そう言った太宰さんに、与謝野さんが肩をすくめた。
「まぁ、深愛はもともとあんまり体は強い方じゃないからね。明日は普通に晴れだろうさ。」
「深愛体弱かったんですか?」
僕が尋ねると、与謝野先生は頷く。
「小さい頃から栄養失調気味だったからね。妾からすりゃ、同じ孤児院出身のな敦がなんでそんなに丈夫なのか不思議なくらいさ。」
「はは…それだけが取り得なもんですから…。」
彼女は体が弱かったのか。
知らなかった、と僕はうなだれる。
話してくれればよかったのに。
そうしたらもう少し気遣ったりとかできたのに。
そんなことを思いながら、黙々と仕事を進め、ついでに太宰さんに押しつけられた分もこなし、夕方には社を後にした。
コンビニに寄り、食べられそうなものを買うと、僕は彼女のいる寮に向かう。
「あー、そこの坊ちゃん。ほら、探偵社の。」
思わぬところでかけられた声に振り向くと、八百屋からお婆さんが顔を出していた。
「今日は深愛ちゃんどうかしたのかい?朝市に来なかったけど。」
「あぁ、実は風邪を引いてしまったらしくて。」
本当に顔が広いな、と思いながら、僕は丁寧に応える。
「あらまぁ。そりゃ大変だ。季節の変わり目だからねぇ、あんたも気ぃ付けな。はい、これ。お見舞い。」
お婆さんは袋にグレープフルーツとりんごを入れると、渡してくれる。
「お代はいいよ、お見舞いだから。」
財布をとりだした僕を制し、しっかり看病してやりな、と肩をたたかれる。
はい、と返事をすると、僕は今度こそ彼女の元へ歩き出した。