第15章 【R18】Body moves(中島敦)
ベタなラブソングだって、共感する人がいるから売れるわけで。
つまりベタな恋愛をしている人間っていうのが、この世には必ずいるわけで。
そして僕が、その一人なわけで。
何もなかった部屋に新調されたソファーは、驚くほど和室に似合わないのに、その上にいる僕たちにはぴったりしっくり来ている。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて触れては離れる彼女の唇が、どうしようもないくらい僕を誘う。
「…深愛…。」
キスの合間に名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに僕の上に跨がる。
…なんでだろうな。
僕ってMなのかな。
なんでいつも襲う側じゃなくて、こう押し倒されてしまう側なのか。
「敦、好き。」
「うん、僕も。」
そう返すと、やっぱりベタにすねられてしまう。
「好きって言って。」
「大好きだよ。」
そうして僕もベタな返しをする。
幸せな日常の、そんなある日のことだった。
出社すると、いつもの香りがしなかった。
決まって鼻をくすぐるのは、彼女の朝ご飯…つまりフルーツの香りなのに、今日はしない。
「あれ…今日深愛は来てないんですか?」
既に机に座っていた国木田さんに尋ねると、肩をすくめられた。
「俺も気になっていたところだった。今与謝野先生が寮に見に行っている。もうすぐ戻ってくるだろう。」
「…なにかあったのかな。」
心配になってソワソワしていると、他の人たちも出勤してくる。
みんなが部屋にはいると開口一番「あれ…今日深愛は?」と鼻をすんすんしながら首を傾げるのが可笑しくもあったが、やはり心配なわけで。