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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第14章 Rather be(江戸川乱歩)


「乱歩さん?」

 その晩のことだった。

 こっそりやってきた敦くんは、僕が来たこと内緒にしてくださいよ、と言いながら部屋にはいった。

「で、何さ。また僕を責め立てに来たの?」

 そう言った僕に、敦くんが苦笑した。

「違いますよ…。ただ、深愛さんと仲直りがしてほしくて。」

「原因がわからない。僕は何もしてない。」

「だからそれを伝えに来ました。」

 刺々しい僕の態度に臆することなく敦くんは言った。

 流石に大人気ないかとも思ったが、結局僕はぶっすり黙っただけで。

 けれど彼は淡々と続けた。

「乱歩さん、先週の木曜日がなんの日だかとか覚えてます?」

「ただの木曜日だけど。なんで?」

 僕が尋ねると、敦くんは苦笑交じりに、小声で言った。

「…深愛さんと乱歩さんの一周年記念日だったらしいじゃないですか。」

「……あ。」

 思わず間抜けな声が出た。

 すっかり忘れていたけれど、たしかにそうだ、とカレンダーを見ながら思う。

「いや、それだけならいいんですけど…乱歩さん、その日一緒に晩御飯食べる約束してたのに、事件の解決して、その近くに泊まってきちゃったでしょう?深愛さんずっと待ってたらしいですよ。」

「……。」

 完全に僕が悪いと。

『乱歩が悪いんだよ。』

 そう言って背中を向けた彼女が頭に浮かぶ。

「ちなみに晩御飯は慰めに来た与謝野さんと鏡花ちゃんが平らげたそうです。ナオミさんはその日夜通し慰めていたようですよ。」

「……。」

 辛辣なわけだ。

 彼女も、女性社員たちも。

 ずっと部屋で待っていた彼女が目に浮かぶ。

 僕が帰ってこないという連絡を受けて、きっと与謝野さんあたりが伝えに行ったんだろう。

 彼女は早めに帰ってディナーを作っていたはずだから。

 猛省とはこのことだと思う。

 何も言わない僕に、まだ間に合うと思いますよ、と言って敦くんは出ていった。

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