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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第14章 Rather be(江戸川乱歩)


 時刻は九時半。

 彼女はおそらくまだ起きている。

 今行くべきか、明日にすべきか。

「…何を迷ってるんだ、僕は。」

 僕はそうつぶやくと部屋を飛び出す。

 そして少し離れた彼女の部屋のドアノブに飛びつく。

 驚いた顔の深愛が出てきて。

 そしてすぐ不機嫌そうに頬を膨らませた。

「…私怒ってるんだから。」

「うん。」

 言いながら抱き寄せるが、別に嫌がっているわけでもなく。

「…本気で怒ってるの。激おこなんだよ。」

「へへ…うん。」

「乱歩反省してない。もう怒った。」

「ごめんって。」

「………。」

「ごめん、ほんとごめん。ごめんごめんごめん。あと何回言ったら許してくれる?」

 顔を傾け、下から覗き込むと、彼女が目尻に紅を乗せてそっぽを向く。

「…愛してるって言ってくれたら許す。」

「愛してる。」

「もっと感情込めて。」

「…愛してる。」

 ゆっくりと訴えかけるように言うが、彼女の顔はまだ晴れない。

 むしろ泣きそうなくらいだ。

「…もっと…。」

 瞳いっぱいに涙をためた彼女が唇を震わせる。

 愛しいな、と。
 そう思うと止まらなくて。

 抱きしめて口付けを落とすと応えてくれる。

「…ごめん。」

 もう一度いうと、もういいよ、と返ってくる。

「一生恨むけど。」

「君も怒るんだね。僕はもう二度と君を怒らせないって学んだよ。」

「そうして。」

 ぐりぐりと僕の肩に額を擦り付ける彼女の温もりに安心する。

「ずっと一緒にいるから、来年も、その次も祝ってよ。」

「…ふふっ。」

 仕方ないなぁ。

 彼女はそう言って笑った。

 仕方なくてもなんでもいい。

 君がそばに居てくれるなら。

 他に行きたいところなんて、どこにもないんだから。







(君がいるところに行きたい、ただそれだけ。)
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