第11章 Roses (谷崎潤一郎)
人混みにあふれるノイズも、祭り囃子の音も。
全部うるさいんだとは思うんだけど、何がうるさいって、僕の心臓がうるさい。
浴衣似合ってるかな、とか。
帯逆さまだったりしないかな、とか。
ナオミがやってくれたんだし、大丈夫だとは思うけど。
そわそわと鳥居に寄りかかっていると、カランコロンと軽快な下駄の音がした。
「あ、もう来てる。こんばんは。」
はっと顔をあげると、紺色の浴衣を着た彼女がいた。
「………。」
思わず絶句。
心臓が潰れるかと思うくらいの衝撃。
だって見てよ。
これ僕の彼女!
そんな風に叫んで回りたいぐらい、彼女はきれいだった。
「与謝野さんにやってもらったの。可愛いでしょ?」
なるほど、浴衣の柄が薔薇と蝶なのは、与謝野先生の趣味か。
「与謝野先生グッジョブ…!!すっごく似合ってるよ。綺麗だ。」
「ふふっ、ありがとう。」
手を繋いで、並んで歩いて。
あちこち目移りする深愛に、財布の限界まで買ってあげたくなる。
早速リンゴ飴を買った彼女は、持っているだけで楽しいから、と笑った。
「けど、いつも一個は食べきれないんだよねぇ。いつも捨ててたけど、今年は潤くんと半分こかな。」
「わかる。食べきれなくても買いたくなるんだよね。」
そうなの!と目を輝かせた彼女が、今度はたこ焼きを買っている。
適当に座る場所を見つけ、肩を並べると、深愛は歩いているうちに少し冷めたたこ焼きを差し出してくる。
「はい、あーん。」
「あーん。」
可愛くて仕方ないのは、異能のせいなんかじゃない。
僕が彼女にそれだけ惚れているから。
アツアツのたこ焼きを頬張りながら、僕は思う。
リスみたいにほっぺを膨らまして食べるのは彼女の癖。
つついてやれば、こくんと飲み込んで、もう片方の頬に空気を溜める。
そっちをつつくと、また違う方に戻る。
「えい。」
ぱん、と両頬を掴めば。
ぷふぅ、と間の抜けた音がして、彼女の唇が小鳥みたいに突き出される。
「…つ、ん。」
ちゅ、とキスすれば、人目を気にしながらも答えてくれた。