第11章 Roses (谷崎潤一郎)
また手をつないで祭りを見て回って。
射的でトラのぬいぐるみを見つけた彼女が敦君のお土産にすると言うから、一緒にとって。
ナオミのお土産に綿飴を包んでもらって。
乱歩さんのお土産にどうだろうと駄菓子の詰め放題をして。
あっという間に過ぎた時間にため息が漏れる。
「もうすぐ花火だよ。」
「わかったわかった。わかったから転ばないようにね。」
早く早くと海沿いに僕を引っ張っていく彼女に言う。
玉のような汗が浮かんだ白いうなじと、リンゴ飴のせいで赤くなった唇に煽られるように、石のブロックに座った彼女を抱き寄せる。
「潤くん!?」
危うくバランスを崩しかけた彼女を抱き留める。
「あー…もうなんか夢落ちでも信じるだろうな。」
「何言ってるの、現実だよ。」
「現実ってこんなふわふわしてるものなのかな。僕もしかして変な薬とか飲まされた?」
「与謝野さんはそんなことしないよ。」
「別に与謝野さんとは言ってないけどね。」
「あっ…そっか、太宰さんってこともあるかも。」
そこじゃないんだけどな、と言いながら、僕は彼女の首もとの汗を舐めとる。
ぴくんっと体を跳ねさせた彼女は、汚いよ、と囁く。
「汚いもんか。雪解け水よりも綺麗だ。」
「しょっぱいくせに。」
「いや。」
僕は首を振って、顔を上げる。
頬を紅潮させた彼女と目があって。
「甘いよ。すっごく。」
自分でも驚くくらいうっとりとした甘い声が出た。
見る間に赤くなっていく彼女の横で一発目の花火が上がるけど、そんなの全然気にならない。
恥ずかしいと思っているはずなのに顔を背けるどころか目も逸らさない彼女に、僕の熱が伝わったんだろうか。
「好き。」
彼女の口から漏れた言葉も驚くくらい甘かった。
「ずっと一緒にいて。」
彼女の二の腕を掬い上げると自然と首に絡ませる。
きゅ、と力の入った彼女の腕に応えるように、僕も彼女の腰に腕を回す。
「大丈夫。離さないから。」
花火なんて目もくれず。
色とりどりの光に反射する彼女の瞳が閉じられる。
伝わる温もりに、体の奥底から彼女を感じる。
多分彼女も、僕を感じているんだろう。
(花より団子、花火より君。)