第9章 Despacito (芥川龍之介)
「今日も仕事お疲れ様。お茶でも入れる?」
部屋に戻った頃にはすっかりいつもの調子に戻っている深愛に、なぜだかイライラする。
ソファに座り、ぐいっと引き寄せると、自然と深愛が上に乗る体制になる。
ムッスリと黙ったままでいると、彼女はやがて僕の膝の上に落ち着き、肩にこめかみを付けた。
「……。」
「……。」
沈黙に耐えかねたのか、何もしない僕に耐えかねたのか。
深愛の髪が僕のもみあげをいじりだす。
くすぐったいが我慢していると、なるほど。
思わず笑みが漏れて、僕は深愛を抱きしめる。
「え、ちょ…龍?」
「深愛が三つ編みをしてくるのは、構ってほしいからだと聞いた。」
「っ!中也さんでしょ!?あの人なんで余計なことしか喋らないのかな!」
真っ赤な顔で怒り始めた深愛を抱き寄せながら、僕は深愛に問いかける。
「…寂しがっているときの癖だとも言っていた。…なにか僕に言いたいことがあるなら、遠慮なく言ってほしい。」
「それは…。」
深愛が口を半開きにしたまま固まり、僕はじっと待つ。
やがて僕に逃がす意思がないと察したのか、おずおずと言葉を発した。
「……夜寝るとき、上着を脱いでほしいの。」
「…だが…。」
「わかってる!私を守るためにやってくれてるんだって言うのはわかってる。けど、私はマフィア幹部の右腕だよ?体術なら龍より上だよ?だって中也さんが直々に仕込んだんだもの。」