第9章 Despacito (芥川龍之介)
なるほど、差支えがある、とはこういうことか、と僕は理解する。
嫉妬など見苦しいが、もうどうしようもない。
僕だってしたくてしているわけではない、と言い訳をする。
「おかげで見ろ、髪がおかしな方向にハネてやがる。」
「いつもどおりですよ。」
憎々しげに言った中原さんに答える声があり、全員がそちらを向く。
「深愛、お前いつからそこにいた?」
「たった今です。駄目じゃないですか。か弱い女性を襲うなら、自分より背の低い男の人と一緒にいるときでないと。まぁ、そんなこと起こるとは思えませんが。」
「テメェ、喧嘩売ってんのか。それに俺は樋口を誘っていたわけではないからな?」
「そうでしょうとも。中也さんにはもったいないです。」
いらいらと。
この二人が自分がマフィアに来るずっと前から一緒にいることは知っているはずなのに。
嫉妬なんて無駄だとも。
それでも我慢ができなくて。
「いてぇ!髪引っ張んな!大体テメェは少し生意気が過ぎ…。」
「中原さん!」
たまらず叫ぶと、全員が驚いて僕を見る。
「…仕事は終わりですか?」
「お、おう。今出したのでな。」
「そうですか、では帰ります。深愛、行くぞ。」
パシッと、中原さんの髪を掴んだままだった深愛の手を取り、僕はあるき出す。
「え、あ、樋口ちゃんお仕事お疲れ様。あと中也さんも。」
「テメェ普通逆だろうが。」
グイグイと手を引く僕に引きずられるように深愛はついてくる。
やがて後ろに残された二人が見えなくなっても、僕の心のササクレはチクチクと痛んだままだった。