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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第9章 Despacito (芥川龍之介)


「芥川。仕事帰りか?」

「中原さんもですか。」

 裏切った情報屋の始末を終えて戻ってくると、中原さんと鉢合わせる。

 もちろんその後ろには、彼の一番の右腕であり、僕の恋人である深愛もいるわけで。

「中也さん。書類出しておきますから。」

 中原さんが持っていた書類を受け取り、深愛が僕に笑いかけると書類受理のためにオフィスに消えていく。

 それを見送ると、中原さんがこちらを向く。

「芥川、お前深愛と何かあったか?」

「は?いえ、何も…。」

 唐突な問いに、一瞬目を見開くが、いつもどおり冷静に答える。

「深愛ちゃんに何かあったんですか?」

 樋口が尋ね、僕も首を傾げる。

 昨晩も今朝もいつもどおりに見えたのだが。

 すると中原さんは、少し反り返ってオフィスをのぞき、僕とその後ろの樋口の背を押し、曲がり角まで連れて行く。

 何事かと中原さんを見れば、彼はひそひそと小声で話す。

「…ここんとこ調子がおかしいんだよ。いや、任務遂行はいつもどおりよくやってんだが、殺し方が雑だ。」

「一体なにで判断してるんですか。」

 思わずツッコミを入れると、中原さんはニヤリ、と笑った。

「お前な、俺は気ィ使って一番お前に差し支えなさそうなことを言ってるんだぞ?感謝しろ。」

「別に僕は何を言われても気にしません。」

 ムッとして答えると、中原さんは肩をすくめた。

「まァ、あいつは俺が育てたようなもんだからな…。別に気にしないならいいが…あいつ、なんか寂しがってるぞ。そういうときの癖が出てる。」

「癖?」

 僕が眉をひそめると、中原さんは頷いた。

「俺の髪を三つ編みしだす。」

「ブフッ…。」

 後ろで樋口が吹き出し、僕も呆然とする。

「なんですか、その癖は。」

「構ってほしいときの癖だな。俺がそれをすると怒ると知ってやがるくせに、わざわざ膝の上に座って三つ編みしだすんだから、殴れって言ってるようなもんだ。」

 膝の上に。

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