第5章 Closer (中島敦)
「…ぎゅってして。」
あぁ、甘えたいんだな、と苦笑混じりに僕は彼女の要望に応えた。
あぐらをかき、その上に彼女を乗せると、背中に手を回す。
甘えるように首筋におでこをすり寄せてきた彼女に、虎の僕なんかよりもずっと猫っぽいな、なんて思う。
「十年前に孤児院から救われて、いろんな人が私の親代わりに名乗り出て。最後に与謝野さんに拾われて、大切にされてきたけど、それでもやっぱり敦くんは私にとっての特別だったの。」
そういった彼女に、なんでそこまで…と問えば、だって、と彼女は身を乗り出して、僕を押し倒すとその上に乗る。
「だって…!私が異能に目覚めたのは、敦くんのおかげだから…!」
「え?」
「孤児院で、私の事好きって言ってくれた!だから『クルーシブル』が目覚めたの!」
言葉が出なかった。
だって僕は知らなかった。
そりゃあ、ナオミさんたちがあんなふうに言うわけだ。
確かに僕だけの特権だ。
彼女は僕がいないと駄目なのだ。
今も昔も変わらず、彼女は僕の愛で異能を使い、他の男どもはそのおこぼれをもらっているに過ぎないのだから。
どうしよう。
自分がしょうもないこと考えてるってわかっているけど嬉しい。
世界中に叫んで回りたいぐらいだ。
君たちが彼女に魅力を感じるのは、彼女が他でもない、僕の恋人だからなんだぞ、と。