第5章 Closer (中島敦)
「…キスしたい。」
僕が言うと、彼女は僕の腕にころんと横になり、下から重ねるように唇を這わせてきた。
可愛い。
好きだ。
この口も目も鼻も髪も耳も足も、腕も背も腹も尻も爪も、体に生えた産毛の一本までも。
全部僕のものだと。
何度も重なる唇から伝わる温度を感じながら、涙が出そうなくらい痛感する。
彼女は僕を愛している。
そっと離れた唇に、目を開くと、薄く涙の膜が張られた、透き通るような瞳と視線がかち合った。
その瞳には、白銀の髪でヴァイオレットイエローの瞳の少年が映っている。
むしろ、それしか映っていない。
そのことに驚くほど安堵して、僕は深愛に語りかける。
「僕が好きな人は、今も昔も、ずっと変わらない。君だけだよ。たくさんのことが変わったけれど、僕は間違いなく君を愛していて、それだけは変わってない。あの頃のままだ。」
「~~~~っ!もうっ!」
ぐりぐりと額を僕に押し付けた深愛に、僕は笑いながら続けた。
「あの頃から変わってないからこそ、また君を手放すようなバカをしないか不安だけど、今は昔と違って頼もしい仲間もいる。それに僕も強くはなったと思うんだ。君一人なら、守れるくらいには。僕らは幸せになれるんだ。」
「…ん。」
甘えるように擦り寄ってきた彼女を抱きしめ、僕は幸せのなんたるかを噛み締める。
止まらない。
彼女を思う気持ちも、彼女から流れ込んでくる気持ちも。
絶え間ない流れを作って、そこに僕らは取り込まれていくんだ。
(止まることを知らない二人の流れ。)