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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第3章 Hands to myself (江戸川乱歩)


「僕がこんなにドキドキしてるのに、なんだか君が余裕そうなのは異能のせいなのかい?」

 そう言うと、彼女は「んふっ」と楽しそうに笑いをこぼした。

 なんだか腹が立って、僕はガリッと深愛の鎖骨を噛む。

「いたっ…。もう!違いますよ。だって私もドキドキしてるし…。確かに私の異能は、恋人に対しては無条件に発動しますが、それは微弱なものです。ただ、異能が持続されるように、長続きする手助けをしてくれる程度で…。」

「じゃ、なんで過去の元カレとは別れたのさ。」

 僕が尋ねると、彼女は肩をすくめた。

「手助け程度なので、駄目なときは、もう駄目なんです。人並みに失恋もしますし、傷つきもします。」

「ふーん…。」

 そういうもんか、と思いつつ、僕は本命の質問を口にした。

「…その君の異能はさ、僕以外の誰かからも愛されているから使えるってことなんじゃないの?」

 沈黙が流れ、湯船に揺れるお湯の音だけが響く。

 突然恥ずかしくなってきて、もう一度深愛の鎖骨を噛むと、彼女は短い声を上げた後に、笑いながら答えた。

「もう!何を悩んでいるのかと思えば…!」

深愛は僕の頬をぷにっとつまむと、クスクス笑いながら言った。

「あのね、よく考えてよ。私の異能は乱歩に今この瞬間も発動してるんだよ?それって私が乱歩しか見てないからなの。他の誰かなん関係ないよ。乱歩が好き!」

一息で言い切った彼女は、楽しそうに僕の頬をぷにぷにしながら、微笑んだ。

「……っ、君は本当にずるい。君なんてもう嫌いだよ。」

「うそ。だって乱歩、ドキドキしてるもん。」

異能が発動してるってことは、乱歩は私のこと嫌いじゃないね。

そう言った彼女の唇を半ば強引に奪えば、深愛はそれを受け入れた。

頭の隅で風邪ひくぞ、というアラームが聞こえる。

けれどそれも、理性がブチブチと切れる音にかき消されていく。

好きだ、が溢れて止まらない。

多分これは、異能なんか関係なく、僕の本当の気持ちなんだと。

やっとすっきりとした気持ちで、僕は深愛を抱きしめた。



(溺れていく、麻薬のように、なりふり構わず)


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