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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第3章 Hands to myself (江戸川乱歩)


「気に入ってもらえたならよかったです。国木田さんに手伝ってもらって、最高の味を作り上げたんですよ。」

「一体なんで国木田なんかに頼ったのさ。あいつに頼ったら一ミリの誤差も許してもらえなかったろうに。」

「そうなんです!おかげで夜までかかったんですけど、楽しかったですよ。」

 ぴく、と僕の方が跳ねる。

『夜まで』?

「今日の朝も一緒にレモンを選んでいただきました。」

『今日の朝も』?

 あ、これはやばい、と僕は椅子の上で膝を抱える。

「先ほどもたくさん手伝っていただいて…って、どうかしました?乱歩さん?」

 くるっと椅子の背を向けてしまった僕を、彼女はいぶかし気に覗き込む。

「…いや、何でもないよ。」

「何でもないわけありますか。こっち見てくれないと寂しいです。」

 あぁ、もう。

 ちょっとくらい拗ねて、困らせてみたっていいじゃないか。

 僕はいつだって君に振り回されてるんだからさ。

 けど君の異能ってすごいよね。

 なんだっけ。

『クルーシブル』?

 なんかさ、君が何かを言うたびに抱きしめたくなるし、君が他の奴と話すたびに独占したくなる。

 僕の恋心が増幅されるってそりゃないよ。

 だって、僕これ以上君にのめりこんだら、他に何にもできなくなっちゃいそうだもん。

「乱歩さーん。なに拗ねてるんですか。こっち見てくださいよ。」

 ちょいちょいと髪が引っ張られ、僕はそっちを向く。

「あ、やっとこっち見た。」

 心底嬉しそうに笑った彼女に、もう完敗だよ、と口づける。

 驚いたように目を見開いた彼女だったけれど、能力柄、きっとこういう突発的なスキンシップには慣れているんだろう。

 彼女は可愛い。

 だからかな。

 君って異能が使えなかったことってないよね。

 僕らがまだ付き合う前から。

 僕が君に夢中になる前から。

 それってつまり、僕が好きになる前から君のことが好きな誰か…ってのがいるんじゃないの?

 最近、そんな考えがちっとも消えないんだ。

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