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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第22章 All we know(中原中也)


「…見苦しくても…っ、幹部失格だと罵られても構わねェ!ここにいろ!俺の部下でいろ!ほかの部署には行くな!間違っても!ほかの男に体を売るな!視線さえ………。」

 俺以外には、くれてやるなよ、と。

 そう叫ぶと、耳元で深愛の細く震える呼吸が聞こえた。

「……行かないですよ。」

「…そうか。」

 安心してそう言うと、深愛は俺の頬に唇をつける。

「…全部、お断りしてきました。正直今回迷ったのは事実です。マフィアの利益に大いに貢献できますから。」

 けど、と彼女は続ける。

「…中也さんのそばにいたいって…思ってしまったんです…。」

 マフィア、失格ですかね、と彼女が弱々しく笑う。

「…中也さんの書類仕事を半分こなしたりだとか、二人でオフィスに泊まり込んだりだとか、仕事帰りにドライブだとか、遠征で2人っきりで遠くの国を仕事がてら旅したりだとか…。そういう…そういう、中也さんとの時間が、何よりも大切になってしまったんです。」

 ぎゅ、と深愛の腕が俺の背に回り、俺はそれを抱きしめ返す。

「離れたく…ないんです…。」

 たまらず唇を重ねれば、彼女は俺の首に腕を回した。

 好きだ、好きだ、と。

 そんなことばかりが浮かんでは消えていって。

 今日は帰るか、と深愛を抱き上げると、俺は愛車に飛び乗って、煙草に火をつけがてらエンジンをふかす。

 帰り道までの途中、夕暮れの海岸線の信号で車を止めると、深愛の夕日に照らされた頬が赤みを帯びて見えた。

 オレンジ色に染まった睫のそばを、彼女の煙草の煙が揺れていた。

 窓から煙が出て行き、俺は幾分落ち着いた気分で、彼女に謝罪の言葉をかける。

「…ワイシャツ…破いちまって悪かったな。」

「……いえ…、こちらこそ、引き抜きの件、ずっと黙っててすみませんでした。」

「…相談してくれりゃ、よかったのによ。」

 そう言うと、彼女は首を振った。

「…マフィアの利益より中也さんが大切だなんて言ったら、見捨てられてしまうかもと思って…。」

 そんなわけあるか、と。

 そう思うが、真剣に悩んでいたのだろうな、と、昨日の様子を思い出して思う。

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