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【文豪ストレイドッグス】愚劣なる恋愛詩

第22章 All we know(中原中也)


「…姐さん、今いいか?」

 絢爛な和座敷に座っている姐さんに声をかければ、もっと近ぅよれ、と微笑まれる。

「主が自分からここに来るのは珍しいのぅ…なんじゃ、深愛となにかあったか。」

 すべてお見通し、というように言った姐さんに、俺は素直に頷いた。

「…なんかあいつ元気ねェんだよ。姐さんなんか知らねェか?」

 姐さんが眉をひそめ、俺を見る。

「お主…ついに愛想を尽かされたか。」

「帰る。」

 冗談じゃ、と。

 そう笑って、姐さんが考え込む。

「まぁ、おなごは繊細じゃからのう…些細なことでも真剣に受け止めて悩んだりもするが…。」

 そこで息を吐き出し、姐さんは煙管に火をつける。

 そういえば俺の煙草は姐さんの影響だな、と。

 今更ながら思っていると、姐さんが俺を見て目を細めた。

「首領から来た、引き抜きの案件で悩んでいるのではないかのぅ?」 

「引き抜きィ?」

 なんのことだ、と声を裏返せば、なんじゃ聞いておらんのか、と姐さんが目を見開いた。

「深愛を欲しがっている部署があってのぅ…まぁ、正直お前の右腕で留まらせておくにはもったいないくらいの人材じゃからな。上に立たせたいという首領の考えもあるんじゃろうが…。」

「なんだそれ…聞いてねェぞ…!」

 俺が叫ぶと、まぁ落ち着け、と姐さんは俺を諫める。

「別に今に始まった話ではない。深愛がずっと突っぱねていただけのことじゃ。しかし、今回の部署が諜報課じゃったからのぅ…深愛の『クルーシブル』は本来、敵の懐に潜り込んで秘密を吐かせることに適しておる。」

 それは主もわかっておるじゃろう?と。

 確かに、戦闘担当の俺の下では本領発揮はできないだろう、と。

 今までにも何度か考えたことだったが、昔自分が拾い、一から育て上げ、今では恋人となった彼女を自分の下から移動させるなど、という屁理屈で誤魔化してきたのだ。

「…深愛は聡い子じゃ。自分の能力がその部署に求められていると気づいてしまったのじゃよ。」

 姐さんの言葉に、俺の手先が冷えていく。

 深愛が離れていく?

 俺から?

 彼女が俺のオフィスから消え、他の男のオフィスに通い出して。

 そして秘密を吐かせるために、敵組織に『女として』潜り込むのか。

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