第22章 All we know(中原中也)
伏せられたまつげをチラリと眺め、俺は口を開く。
「…そりゃ残念だったな。その曲、最近ハマってたみてェだったし。」
「…………。」
返事がないことに違和感を覚え、そちらを見ると、意外にも目が合った。
こちらを見ているとは思わず、少し驚いて車を止める。
海風が肌を撫で、波の音が響く。
不協和音を奏でていたエンジン音を切ると、俺は黙って扉を開け、外に出る。
それに倣って外に出てきた彼女と、並んで金属のフェンスに腕をかけ、海を眺める。
時折後ろを車が走り抜けるが、至って静かだった。
先に沈黙を破ったのは、深愛の方だった。
俺の指にその白く細い指を絡め、ポツポツと言葉を紡ぐ。
「…なんか、時間が経つごとにやっぱり気持ちって離れていくのかな…とか…。中也さんは私のことを本当に大切にしてるから…例えば今が幸せの絶頂なら、もう下がっていくだけなのかな…とか。」
ただの歌だろ、と。
笑い飛ばすには、彼女は余りにも真剣で。
「……変わらないもんもあんだろ。」
俺がそう言うと、深愛はまつげを伏せる。
「…今が絶頂とも限らねェし。」
たかだか歌で何でそんなに真剣になれるんだ、と。
そのときはそう思った。
けれど同時に、これはなんかあったな、と。
何か悩んでるんだろうな、と。
そう思うといてもたってもいられなくて。
その日はそのまま帰ったが、翌日には俺の脚はある人のもとに向かっていた。