第22章 All we know(中原中也)
煙草は体に悪いですよ、なんて。
彼女に言われたのは何年前のことだろう。
今では俺の煙草を当然のように抜き取り、口元にそれを持ってきて火を貰っていく。
煙草の煙を窓の外に吐き出し、彼女は歌を口ずさむ。
洋楽なのか。
その歌の意味はよくわからないが、恋愛の歌なんだろうな、ということは曲調からわかる。
海風にたなびく髪が、太陽の光に反射し、きらきらと光る。
それを横目で見ながら、俺は愛車を気持ち良く走らせていく。
「…この曲。」
「あ?」
唐突に彼女が言葉を発し、俺は横目でそれを見る。
「……この曲、失恋の曲だったんです。」
「…へェ。」
幸せな歌だと思ってたのに、と。
彼女は残念そうに言う。
「…仲良しだったカップルが、どんどん熱が冷めていって、互いに対して無頓着になっていくんです。けど、長いこと一緒にいたから惰性でズルズル一緒にいて…けど、このまま気持ちが色あせていくのなら、別れた方がいいのかもしれない…って、曲でした。」
俺たちには関係ないだろ、と。
なんとなく、脳天気な彼女が珍しく俺たちの未来を危惧しているのだろうか、と察して思う。