第21章 The fighter(坂口安吾)
そう微笑んだ彼女が泣いたり怒ったりすることは、滅多にない。
そんなことあってたまるか、と思う反面、そんな顔をほかの男に見せてたまるかとも思う。
例えばホロホロと目から涙を落とす彼女が目の前にいたら、ふつうの男は抱きしめたくなるだろう。
これもまぁ、彼女かわいさ故の贔屓目なのかもしれないが。
「大体、深愛は少し警戒心が無さすぎなんだ。」
「あれ、敬語はいいの?」
「二人っきりですから。」
「……戻った。」
変なの、と。
そう笑った彼女を肘掛けから引きずりおろし、僕の膝の上に横向きに乗せる。
「……昔からその能力で散々傷ついてきたんだろうし、正直僕以外の男と関わらなくていいと思ってる。」
そう言うと、彼女は目をまん丸にして、こちらを見た。
「……安吾ってさ…。」
「ん…?」
唇と唇が触れ合いそうなくらい近くで見つめ合えば、彼女は真っ赤な顔で目をそらした。
「い、意外と独占欲強いよね…。」
「嫌じゃないくせに。」
「…当たり前でしょ、馬鹿…。」
ちゅ、と触れるだけのキスを落とせば、彼女は嬉しそうに笑った。
「…深愛は僕の唯一だし、僕も深愛の唯一でありたい。今まで受けた傷も、僕なら癒せる。」
「自信満々だね。」
そう言った深愛に、僕は真面目な顔で返す。
「だってもう他の人を好きになる予定もないから。」
「~~~~~っ、もーっ!好き!」
彼女にはいくつか癖があるけれど。
この僕の頬をいじりだすのは、照れているときの癖だな、なんて。
そんなことを思いながら、僕は彼女の唇を求める。
なんだか仕事も何もかもどうでも良くなってくるのは何故だろう。
そのうち僕は、彼女に溺れて何も見えなくなってしまうのかもしれない。
それでもかまわないと。
彼女が僕を求めてくれるなら、それも悪くないと。
きっと僕はもう手遅れなくらい、彼女に溺れている。
(共依存の海に溺れる。)