第2章 Quit (太宰治)
「…………。」
「太宰さん?」
そんなもの、いたら困るよ、だなんて。
あーやだやだ、今日の私はどうかしているな。
大体、君が悪いんだよ。
乱歩さんと仲良くお茶するだなんて。
それに午前中だって。
「…深愛は一体私のどこを好きになったんだい?」
「それ、もしかして気にしてたんですか?」
「してない。」
我ながら子どもみたいだ。
なんだか空しくなってくるが、じっと答えを待つ。
すると、深愛はぷふーっ、と噴き出した。
わけがわからず目をまん丸にしていると、深愛は笑いながら言った。
「そういうところです。」
「え?」
思わず聞き返すと、彼女はクスクス笑いながら続けた。
「だから、いつも飄々としているのに、実は結構甘え下手で、子どもみたいにヤキモチやいちゃうところとか、スカートめくりとか古典的な手段で気を引きたがっちゃうところとか。」
大好きですよ、と微笑まれてしまっては、もう言い返すすべもない。
完敗だ、と深愛の首に額をつける。
「太宰さんを好きになって後悔なんかしたことないですし、これからもないですから。あんまり皆さんの言うことは気にしなくていいですよ。太宰さんほどかわいい人もなかなかいないですし。」
かわいい、という言葉にぴくり、と反応し、私はちうっ、と音を立てて深愛の背中に赤い花を咲かせた。
「ちょ!」
「私はかわいくはないよ。それは敦君だとか賢治くんに使うべき言葉だ。」
「あれは愛嬌がある方のかわいいです!もう!それくらいわかってくださいよ!」
「じゃあ私のかわいいはなんなのさー!」
「そうやってすぐすねちゃうお茶目なところじゃないですか?」
「適当だなー。」
私は「つまんないのー」と言いながら、いすに座る。
そしてしばらくは洋食に決めたらしい深愛の後ろ姿を見ていたのだが。
「…マフィン食べたい。」
「夕飯のあとです。」
「…ちぇー。」
やっぱり私は、彼女の言うとおり、甘え下手なお子ちゃまなのかもしれない。
(やめておけなんて、言うだけ無駄なんです)