rain of jealous【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of jealous
「っ・・・」
絶対に気付かれたくない。
電話の冒頭で「シャワーから出た後だ」とは言っても、それは自宅で浴びていたという意味合いで名無しは友人に告げている。
男の、それも、変わらず存在も間柄も明かせない相手の部屋のバスルームを借りていた、なんて、どんな理由があっても言えないことだった。
ナッシュは悪ふざけを止めることはなく、名無しの耳たぶをかぷ、と食み、噛まれた感触に彼女がぴくりとした瞬間には長い舌を伸ばした。
じっとりと曲線すべて舐め回し、いやらしく唾液が弾ける音が、片方の耳にだけうるさく聞こえる。
実際はその卑猥な水音はとても小さく、名無しが部屋に響くか否かを絶妙に感じていたのは、それが彼女の耳元だったから。
なにより、小声で甘ったるい声を出して、耐えろと告げるナッシュの今の言動の方が、名無しにとっては実に非道に思えていた。
「ッ・・・」
ナッシュは名無しのTシャツを腰のくびれまで捲し上げながら、露わになった尻に指の腹でフェザータッチを行い、ぞくぞくとせざるを得ない状況をわざと作った。
片腕は変わらず胸にある。
やわらかな膨らみを揉み、乳首を弄んだ。
名無しの臀部に鳥肌が立ったのを感じれば、割れ目の奥へと指を少し伸ばすだけで、彼女に変化があったこともすぐに把握できた。
「ん・・っ」
耳に続き、巧妙に首筋を舐められてきっと気持ちが好い筈なのに、名無しは必死に平静を装いながら電話を続けていた。
ソファの上で膝を付く姿勢は、その体勢ゆえに尻を突き出している様にも見える。
拒んでいても傍から見れば、まるでナッシュに自分を擦りあてているようにも窺えた。
「――・・ッ・・・うん・・、来週決めよう?ん・・ごめんね、ありがと。・・・じゃあ」
「・・?・・・ん」
堪える名無しを見つめるナッシュは、そのすぐ背後で微笑を止められず、この状況をどうしようもなく楽しんでいた。
「・・・」
が、その後まもなくして、黒く笑んだ表情は意外にも、すぐにナッシュ自ら掻き消していた。
名無しが電話を漸く終わらせたときには既に無を演じ、緩んだ視線はきつく整えながら。
終話間際、彼女の肌に口付け、舌で愛でた際にふと感じたひとつの疑問が、ナッシュの顔色にそうやって変化を齎していた。