rain of jealous【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of jealous
「・・・言えるわけない・・今のままで・・―――私は・・・っ」
コロンや石鹸など二の次だ。
自覚もある・・・・指摘されてどきりとしたのは、ひとつしか思い当たる節がないから。
自身に纏わりつくのは、他でもないナッシュの匂いだった。
シャワーで全部洗い流したかった・・・毎回そう思っていた筈だった。
けれど、もう流せなくなっていたことも、流したくなかったことも、事実と本音として既に彼女の中で出来上がってしまっているのだ。
「・・・・・はぁ」
またひとつ大きく、そして深くため息をつく。
そのとき、折角手のひらに落としていたソープは泡立てられることもなく、シャワーの打ち付けによって排水溝へと綺麗に流された。
「・・・ナッシュ・・」
抱かれた事実を消したかった。
だから何度も何度も、死ぬほど身体を洗っていた。
ナッシュの部屋のバスルームでも、そして自宅の其処でも。
それは遠い過去ではないのに、シャワーを浴びる度に感じるのだ。
ずっとずっと、恨むように、祈るように思ってきたこと。
自分よりも都合のいい女が早く現れて、用済みになりたいと願うばかりだった。
「・・・・・・」
それが今はまるで、真逆のことしか考えられなくなっていたのだ・・・・心境の変化とは、なんて残酷なのだろう。
名無しは自分の気持ちを偽れずに、困惑を極め続けていた。
「・・・ナッシュ・・――」
温かくも、清涼感の漂うシャワーの心地よい音を傍に。
その後、ため息を深呼吸にむりやり昇華させ、気持ちを落ち着かせて彼女がナッシュの待つ寝室へと戻ったのは、二十分ほど経ってからのことだった。
それまで名無しは暫くバスルームから出れずに、想いを募らせて一人、その場は壁際に背をついて、ただ静かにしゃがみ込んでいた――。