rain of jealous【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of jealous
自宅で毎日風呂に入り、寝起きを繰り返している当たり前の日常。
好みで選んでいたのは勿論、自分自身が気に入ったシャンプーやリンス、ボディソープに、湯上がり後のケアをする整髪料まで様々だ。
余程疲れていない限りはバスタブに湯を張るし、起床時だって、出来る限りシャワーも浴びていた。
時々、他人の家のそこを借りた場合を除いて・・・。
そのときだけは、帰宅後に重複して入浴することはなかった。
「・・・・・」
だからだろうか、最近指先で髪に触れる度に持つ違和感が、名無しにはどうしても気のせいとは思えなかった。
「・・・・・はぁ」
その日の名無しは、数日前、仲の良い友人に会った際に突かれた一言を未だに引き摺っており、絵に描いたように曇った表情を零していた。
引き摺りたくもなるのは、それを連想させるとある場所はちょうど、バスルームに彼女自身が立っていたのも理由のひとつだ。
何を当たり前のように堂々とシャワーを借り、当たり前のように、男の使うボディソープを手のひらに垂らしていたことか・・・。
友人と待ち合わせてのちに街を歩いていた時、ふと、いつもと違うと指摘され、主語を聞けば返された言葉は、「シャンプーでも変えたのか?」というきつい一言だった。
勿論、友人にしてみれば、その問いは棘ひとつ添えることなく口にした何気ない会話の一環にすぎない。
名無しに心当たりがありすぎたから、彼女が勝手に棘を感じ、胸を痛ませていたのだ。
「・・・・」
会う数は減るどころか増える一方。
だがそれでも、知れた数の筈である。
どうして見抜かれるのか・・・。
「・・そんなに私・・・染み付いてるの・・・?あの人の・・」
湯気の立つシャワーの下で一人、独り言を呟く。
名無しの見るからに落胆した後ろ姿には、どこか儚さが垣間見えていた。