第1章 ※原作より過去に戻る
才能があるとかないとかそんな小さな問題は関係ない。どこまで正義感があり周りに起こる辛い出来事で精神的に壊れないかが問題なのだ。その素質が立香には備わっていて、私には備わっていなかった。それだけの事だ…その事をモリアーティに伝えればそっと頭を撫でられた。
「逃げる事も時には大切だよ、マスター。それにだ、生憎私は君の妹であり弟である立香と言うもう一人のマスターを知らなくてね?君が正式なマスターである事は変わりないんだ…だからもっと頼って欲しいとは思う。いやなに…私も随分強くなったからね。その信頼を裏切るほど腐ってはいないつもりだよ、私は」
「ジェームズさん…」
本当に貴方が悪の組織の親玉には見えないんですけど、なんてじんじんと胸の奥が痛むのを気にしない振りをして、彼の強くなったと言う言葉を信じステータスをアーチャーのカードから表示すれば確かにこの一週間の間に再臨を繰り返してレベル75くらいまで育っていた。もう直ぐ最終再臨だな…スキルアップもしたい所だ。
「ジェームズさんを必ず最終再臨まで育て上げて見せます!」
「あはははっ!それは楽しみだ!だがマスター無理はいけない、休息も時には必要だからネ」
「そうですね、確かに私は人並み程度の精神力しかないので…」
「君は自分自身を卑下にするのを慣れてしまっているな…そこを先ず直さなければいかんよ?」
苦笑いで頷く私に、また頭を撫でられてしまい照れくさく笑ってしまった。周りからよく比べられるのは多かった、魔力があり召喚するのも苦労しなかった私は、どうして聖杯戦争に出ないんだとかなり面倒な家系から言われ続けていた。元々争いごとを好まない私にとって苦痛でしかなく、しかし魔力の血筋が薄い家系からは妬まれる事が多かった。だからこそ秘められた膨大な魔力を面に出ていなかった立香は、魔術家系の家柄で魔力が極端に少ないと言われていたし…私以上に苦労したんじゃないだろうか。
「立香はとても優しい子なんですよ、昔から私の事を姉として慕ってくれて…」
きっと、魔力があって強力な召喚運まで強かった私は可愛げのない能力の無駄遣いの魔術師だと周りから思われていただろう…私がカルデアにいる前の立香の立場なら、素直に凄いと慕う事は出来ないだろうし忌み嫌ってしまうだろうと思う。
「ひねくれているのかも…」
「なるほど、確かに君は奇特なマスターだったネ」