第5章 No.4 ちょっとだけ。
緑谷くんが、ゴキャ・・・グチッ・・・と聞くにも耐え難い音を立てながら右手を握る。
・・・その痛みは半端ないだろうに。
なんで、緑谷くんはそこまで・・・。
緑谷「・・・・・・・・・っ!!
皆・・・本気でやってる。
勝って・・・目標に近付く為に一番になる為に!
半分の力で勝つ!?まだ僕は君に、傷一つつけられちゃいないぞ!
全力でかかって、来い!!」
・・・・・・・・・!
緑谷くんの、その声が。
緑谷くんの、その想いが。
私の心に鈍く響いて届いた。
・・・半分の力、か。
経緯は違うけど、“個性”は違うけど・・・。
半分の力も出してない私にとって、その言葉はかなりキた。
───なんでもありって、バケモノかよ。
───あんな反則的な“個性”、勝てるヤツ居ねえよ。
───個性婚で産まれたとしても、あんなチートな“個性”を半分持ってた親も親だよな。
脳裏に反響する、過去の言葉。
ちゃんと観覧席に座ってるはずなのに、その時の幻影が目の前に居るような感覚になる。
あの孤独だった施設で。
あの感情の無い空間で。
言葉のナイフで縫われるように、心が空っぽになっていく。
他人は数え切れない程に居るけど、自分はたった一人だけ。
それを、解ってた。
ううん、解ってたつもりで居た。
でも、解ってなかったみたいだ。
慣れてたはずなのに、自分で勝手に思い出してこんなに辛いなんて。
緑谷「期待に応えたいんだ・・・!
笑って、応えられるような・・・カッコイイ人(ヒーロー)に・・・なりたいんだ。
だから全力で!やってんだ、皆!」
緑谷くんのその言葉ひとつひとつが、轟くんに向けられてるはずなのに。
他人事とは思えないくらいに私に向かってくると錯覚する。
緑谷「君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない・・・・・・・・・でも・・・・・・。
全力も出さないで一番になって、完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」
攻撃する度にボロボロになってく緑谷くん。
半燃を使わないから霜が身体に降りまくって、どんどん冷気に耐えきれなくなってきてる轟くん。
・・・そっか。
緑谷くんは、轟くんに・・・。