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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第13章 チョコレート少女


「い、いや……それはちょっと」

「別にいいけど」

 止めようとする僕を遮って、詞織さんは承諾した。

「異能は、使わないであげる」

 そう言って笑った瞬間には、詞織さんはもういなかった。
 素早い蹴りが炸裂し、左側にいた男性の顔を狙う。
 フライングにも関わらずその蹴りを受け止めた男性は、やはりプロなのだろう。
 僕だったら確実に喰らっている。
 細い少女の蹴りだが、それを受け止める男性の顔は険しかった。

「吾妻!」

 それが名前なのか、爽やかな方の男性が相方に声をかける。
 掴みかかろうとした爽やかな方の男性から逃れるように、詞織さんは一旦退いた。
 吾妻さんの腕が軽く痙攣しているのは、詞織さんの蹴りの威力が強かったからだろう。

「錦戸、気をつけろ」

 爽やかな方の男性は錦戸と言うようだ。
 警戒する二人は、無防備に立つ詞織さんを見る。
 元議員の気まぐれな発言から始まったけど、今はプライドをかけた戦いになっていた。
 詞織さんはようやく目が覚めたのか、口角を上げて笑っている。
 三人の間に会話らしい会話は一切なかった。
 次の瞬間には、三人の戦いは終わっていたからだ。
 素早く後ろを取った詞織さんが、二人のうなじに手刀を突きつける。
 一歩でも動けば、確実に入る位置だ。

「…………」
「…………」

 勝負あり、だった。

「ま、まさか……」

 呆然と呟いたのは元議員。
 動けない吾妻さんと錦戸さんを一瞥し、詞織さんは腕を下ろした。

「……新幹線」

「へ?」

 間抜けな声を出してしまった僕に、詞織さんは呆れた視線を向けて言う。

「そろそろ行かないと、遅れるけど?」

 僕たちは慌てて動き出した。

* * *

 流れる景色を見ながら、僕は少し興奮していた。

「凄いですね! 僕、新幹線に乗るの、初めてです! 電車よりずっと早い‼」

「そんなに騒ぐことでもないでしょ」

「まぁ、何事も初めては物珍しいものさ」

 そう言ってくれたのは錦戸さんだ。
 僕らが乗っている車両は貸切りで、僕と詞織さん、吾妻さんと錦戸さん、元議員以外は誰も乗っていない。
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