第13章 チョコレート少女
どんな理由があるのかと身構えていると、詞織さんは何かを言おうとして、険しい顔をしながらもゆっくりと腕を下ろしてしまう。
「……あの?」
「……やっぱ、いい。言わない」
「え、でも……ダメなところがあるなら直しますし。せっかくだから、仲良くしたいっていうか……」
へらへらと笑って見せると、詞織さんは顔をしかめる。
そんなに嫌われてるのか。
んー、やっぱり仲良くはなれないかな。
「……仲良くなんて、ならないもん」
小さくそう言った詞織さんは会議室を出た。
「はぁ……大丈夫かな、明日……」
「大丈夫だよ、敦君」
一人になったはずの会議室に、もう一人の声が響く。
「太宰さん」
砂色のコートを翻し、太宰さんが会議室に入って来た。
「大丈夫って、どういうことですか?」
「詞織もプロだからね。それに、誰かを守ることに対して、詞織はある意味でこだわっている」
「こだわって……それってどういうことですか?」
聞き返すと、太宰さんの表情が微かに曇る。
聞かない方が良かったかもしれない、と思った僕に、やはり太宰さんは言いにくそうに「少しね」と答えた。
「一言でいうと、『良い人間』がすることだから、かな」
太宰さんの回答を聞いても分からなかったけど、僕はそれ以上聞かないことにする。
「そう言えば僕、詞織さんに嫌われてるみたいで。何でなんでしょうか? って、人に聞いてるからダメなんですよね」
自嘲気味に言う僕に、太宰さんは大声で笑い出した。
「あはははっ、はははははっ」
え? 何か笑うようなこと言ったっけ?
太宰さんは目尻の涙を拭いながら、目を丸くする僕を見る。
「詞織が君を嫌っているのはね……」
まだ笑いが収まらないまま、太宰さんは嬉しそうに続けた。
「……私が君を気にかけていると思っているからだよ」
* * *
翌日の早朝。
低血圧なせいか、詞織さんの機嫌はすこぶる悪かった。
約束の場所で待っていると、黒服の男性を二人引き連れた、いかにも肩書きのありそうな人物が現れる。
「武装探偵社か」
やや見下したように口を開いたその人物が、今日の護衛対象である元国会議員。