第13章 チョコレート少女
詞織さんの行動に、僕は赤面してしまう。
だが、当の本人は何を思うこともなく、別のチョコレートに手をつけていた。
「どうだった?」
「とても美味しいですわ」
嬉しそうに微笑むナオミさんの頬はほんのりと赤い。
ん? どういうこと?
混乱する僕を他所に、詞織さんはもう一つのチョコレートにも手をつける。
「じゃあ、いつも通り。残りはみんなにあげて」
「いつもありがとうございます。でも、よろしいんですの? この方たち、詞織ちゃんに食べて頂きたいのでは?」
「もう食べた。あたしはチョコが好きだけど、特別なチョコを食べたいわけじゃない。あたしにとってチョコを食べるのは、好きよりも癖に近いの」
意外な真実に、「え」と声を漏らしてしまう。
「何よ」
突っかかるように言われ、僕は何も言えなかった。
僕は詞織さんに嫌われている。
きっと、初日のことだと思うけど。
再び礼を言って、ナオミさんは会議室を出た。
「あの……」
「何?」
やはり素っ気ない返事。
このままじゃ、いつまでもこのままだ。
「すみませんでした!」
僕は机に手をついて謝る。
何のことかと紅い瞳を丸くする詞織さんに僕は続けた。
「初めて会ったとき、僕はグチグチと過去の話をして……詞織さんも辛い目に遭っていたのに。随分不愉快な思いをさせて……」
「何の話?」
そう聞き返す詞織さんは、本当に訳が分からないという顔をしていて。
「え? だって、それで僕のことを嫌っているんですよね?」
僕の方も訳が分からず聞き返すと、彼女は呆れた顔をした。
「はぁ? 何を言い出すのかと思えば……」
ガタンッと立ち上がった詞織さんは、ポカンとする僕の口に何かを押しつけてくる。
反射的に口に含むと、甘い味が舌いっぱいに広がった。
それがチョコレートだと認識したときには、ナオミさんにそうしたように、詞織さんは自分の指を口に含んだ。
もしかしたら、その行動にあまり意味はないのかもしれない。
それでも恥ずかしくなって顔を赤くする僕に、一度舐めた指を突きつけると、彼女は目を吊り上げた。
「あたしがあんたを嫌ってるのは……っ」